守り刀とは?
2023.8.9
日本では、人が亡くなった際にご遺体を北向きに寝かせ、胸元に短刀を置くという習慣があります。この短刀を「守り刀」と呼び、古くから全国各地で行われています。ただし、この守り刀の風習の由来については、一つの定まった説は存在せず、仏教や神道、民間信仰などさまざまな考え方と結びつけて説明されています。
この風習は、亡くなった方の魂や霊を守り、邪気や災いから守るという意味合いが含まれています。また、短刀は刀身が短く持ち運びやすい特徴を持っており、この守り刀が亡くなった方の霊を守る道具として用いられると考えられています。
守り刀の意味を知りたい方
守り刀の置き方を知りたい方
〜仏式での守り刀〜
死者がこの世からあの世へと渡るとされる四十九日間を仏教では「中陰」と呼びます。この期間は、死者が安らかに次の世界へと進むための重要な時期であり、その間に行われる供養や祈りを通じて「追善供養」と呼ばれる儀式が行われます。この追善供養の一環として、守り刀が道中のお守りとしての役割を果たすと考えられています。
守り刀は、死者の魂が安全に極楽浄土へと到達することを願い、その旅路を守護するための象徴として大切にされています。追善供養の期間中、守り刀は亡くなった方の霊や魂が迷わずに進むように導く役割を担っています。
〜神道での守り刀〜
神道においては、死者を穢れ(けがれ)とみなす考え方があります。この穢れを清めるために、守り刀が使用されたという説が存在します。
この考え方では、死者の身体や魂は穢れを帯びた存在とされ、その穢れを払うことによって清浄な世界へと至ると考えられています。守り刀は、その役割を果たすための道具として重要視されました。守り刀が用いられることによって、穢れを祓い清める儀式的な意味合いが生まれ、死者の魂が純粋な状態で神聖な領域へと還ることを願う象徴となりました。
どちらも故人を守るために置かれるものであるという点は、仏式と神式の共通の考え方です。ただし、仏式と神式では、その他の面において考え方が異なっています。
〜習俗としての守り刀〜
他にも複数の説が存在します。一つは、守り刀が死者を魔物から守る魔除けとして使用されたという説です。古代の人々は、死者の魂が魔物に襲われる可能性があると考えており、守り刀を使ってその魔物から身を守ると信じられていました。
また、猫は魔物の類とされており、猫が光るものを嫌う習性を利用した「猫除け」として守り刀が使用されたという説もあります。猫が光るものを嫌うとされ、その性質を利用して、守り刀を猫の形を模したものにしたり、刀身に猫の絵柄を入れるなどの工夫がされたと言われています。
さらに、武士が亡くなると枕頭に刀を置くという風習がありました。この風習が残り、死者の穢れた魂から生者を守るために守り刀が使用されるようになったという説もあります。刀は武士の象徴であり、武士の存在自体が強力な魂を持つものとされていました。そのため、守り刀が死者の魂を鎮め、生者を守る道具として使用されるようになったと考えられています。
これらの説は、守り刀がさまざまな文化や信仰において異なる目的で用いられたことを示しています。
〜浄土真宗での守り刀〜
浄土真宗では、「守り刀は不要とされる」と考えております。浄土真宗は、多くの信者を抱える宗派であり、他の宗派とは異なる考え方を持っています。それは、「人がこの世を去った後の行く末について」の考え方です。
一般的な在来仏教では、「人は亡くなった後に49日間の旅を経て、最終的な転生先が決定される」と信じられています。このため、追善供養や守り刀、旅装束の必要性が生じるわけです。
しかし、浄土真宗では、「信者がこの世を去った後、直ちに阿弥陀如来の加護によって極楽浄土へ旅立てる」と考えられています。
したがって、この宗派では、死後の旅に必要な守り刀や追善供養は不要であるとされております。
※ 浄土真宗以外の宗派においても、守り刀の使用は一律ではなく、地域によって異なることがあります。したがって、守り刀の使用の有無が分からない場合は、ご自身の地域のお寺や地元の葬儀社にご相談いただくことがおすすめです。そこで適切なアドバイスをいただけることでしょう。
〜守り刀の置き方〜
守り刀を使用される際には、丁寧な取り扱いが求められます。刀の刃先が亡くなった方の顔の方向を向かないように注意し、刃先は足元に向け、掛け布団の上で胸元に置かれます。また、納棺が完了した後は、守り刀を棺桶の上に慎重に置きます。
他にも武家の風習に倣い枕頭に置く方法もあります。また、鞘から抜いて故人の胸の辺りに置く方法や、鞘から一部を出して枕元の盆の上に置く方法、そして棺の上に置く方法など、様々なバリエーションが存在します。守り刀の置き方は地域によっても異なるため、お寺や葬儀社におただくことをお勧めいたします。
〜実際に使用される守り刀はどんなもの〜
かつては、守り刀には実際の刀が使用されており、その性質は「刃物」として非常に強いものでした。しかしながら武器としての刃物の性質を持つ守り刀が使用されるケースは非常にまれです。守り刀として現在一般的に使用されているのは、模擬刀(模造刀)であることがほとんどです。
•金属製
金属製の模擬刀(模造刀)は、非常に美しいだけでなく、存在感もあり、故人を守るために使用したいと考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、金属製の刀に関しては、もし「火葬時に一緒に燃やしたい」という考えがある場合、制限がある可能性が非常に高いです。そのため、守り刀は「葬儀が終わるまで故人を守るためのものであり、火葬の際には一緒に入れることができない」ということを心に留めておいてください。
•木製
木製の守り刀は、刃部分を含めて「木」で作られております。重厚感には欠けるかもしれませんが、鍔(ツバ)がついており、柄(ツカ)と刃が分離されています。また、守り刀の場合は通常、刀袋が被せられることが多いため、木製であっても特に問題はございません。
木製の守り刀には、安価であるという利点があります。さらに重要なのは、「故人の棺と共に火葬にすることができる」という利点がございます。この点において、金属製の守り刀とは異なるメリットがあります。
※ 守り刀も銃刀法の制限を受けます。
15センチ以上の刀を「所持」する際には、許可が必要となります。この法律は、実際の刀だけでなく、模造刀剣の携帯にも適用されます。
銃刀法に関連する違反の話もありますが、現在の守り刀は以下のような特徴があります。
・本物の刀ではなく、模造刀となっています。
・15センチ以下の刃の長さを持つものが主流となっています。
以上のような制約が設けられ、合法的に守り刀を所持するためには、法律の規定に準拠する必要があります。
〜まとめ〜
この記事を監修した葬儀のプロよりコメント
守り刀は宗派や宗教によって
意味合いや置き方に微妙な違いがあります
守り刀自体は大きなものではありませんが、その中には古くから伝えられてきた人々の思いが込められています。大切な人の葬儀では、宗派や風習に従い、心を込めて静かに送り出すことが大切です。
守り刀は、信仰や宗教の背景に基づいて使用される場合もあります。宗派によってもその使い方や意味合いに微妙な違いが存在し、それぞれの信仰や風習に根ざした形式が守られています。
大切な人を見送る際には、宗派や地域の習慣に則って、敬意と感謝の気持ちを込めて葬儀を執り行うことが望ましいです。守り刀もその一部として、心を込めて大切な方を静かに旅立たせることができるでしょう。
早稲田大学大学院にて研究。大学卒業後、業界最大手企業へ入社。ライフエンディング領域における多岐にわたる業務に従事し、幅広い分野を経験。仏教葬祭アドバイザー、消費生活アドバイザー、ファイナンシャルプランナー2級、高齢社会エキスパートの資格を取得。横浜葬儀社の事業責任者として、専門的なアドバイスとサポートを提供し、故人様とその家族様にとって安心した葬儀サービスを提供することに全力を注ぐ。